生活保護を受ける人がフードバンクを利用することで保護費が減額される。この判断は妥当なのか、それとも過剰な対応なのか。自治体の判断と国の方針のズレについて考えてみたいと思います。

記事の説明
フードバンクの利用が生活保護費の減額につながるかどうかについて、自治体ごとの対応に違いが見られる問題が浮上しています。島根県出雲市と鳥取県鳥取市は、生活保護受給者がフードバンクを利用した場合、それを「収入」とみなして生活保護費を減額する措置を講じています。一方、厚生労働省は「フードバンク利用による減額は原則しない」との立場を示しており、自治体独自の判断が国の方針と異なっている点が注目されています。
鳥取市では、生活保護受給者が市営フードバンクを2回以上利用した場合、やむを得ない事情がない限り、食料の単価を計算して翌月の保護費から差し引く運用をしています。2024年4月~9月の間に19人の受給者がフードバンクを利用し、そのうち4人が減額対象となりました。この措置は「家計改善の促し」としての意図があるとされています。
出雲市では、フードバンク利用を事前に指導で制限し、利用が判明した場合は翌月以降に減額しています。市側は「保護費には食費が含まれているため、自己管理の範囲内でやりくりすべき」との立場を取っており、他の受給者との公平性を理由に挙げています。
しかし、厚労省は2021年の通達で「過度な利用」を除き、フードバンク利用による生活保護費の減額を原則認めていません。このため、自治体の裁量の範囲内かどうかが問われる可能性があり、厚労省の担当者も「国の考えとズレている」と指摘しています。
一方、松江市や浜田市などの他の10市はフードバンクを利用しても収入認定しておらず、対応が分かれています。
高村の考え
この問題には、「生活保護の原則」と「福祉制度の公平性」という二つの視点が交錯しています。
どちらの立場にも一理あり、単純にどちらかが正しいと断じるのは難しい問題ですね。
生活保護の原則とフードバンクの役割
生活保護は、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を維持するための制度であり、その基準に基づいて受給額が決められます。
保護費の中には食費も含まれているため、理論上は受給者がその範囲内で生活することが前提です。
しかし、現実には家計管理の難しさや突発的な出費があり、フードバンクの支援を必要とするケースもあるでしょう。
フードバンクは、生活困窮者が一時的な食料不足を補うための社会的セーフティネットとして機能しています。
そのため、厚労省が原則として「フードバンク利用による保護費減額は行わない」としているのは、生活保護制度の趣旨と合致していると言えます。
公平性の観点と自治体の判断
一方で、自治体の立場からすると「公平性」の問題も無視できないのでしょう。
出雲市や鳥取市が指摘するように、フードバンクの利用が常態化すれば、他の受給者とのバランスが崩れる可能性がありますしね…。
例えば、ある受給者がフードバンクを頻繁に利用し、生活保護費を別の用途に使える一方で、フードバンクを利用せずに保護費内でやりくりしている受給者も当然おられます。
そうした不公平感をなくすために、自治体がフードバンク利用を収入認定し、減額措置を取るのは一つの考え方として理解できます。
また、鳥取市の「家計改善の促し」という意図も、福祉制度の持続可能性を考える上では重要ですね。
生活保護は一時的な救済措置であり、自立を促すことが本来の目的です。フードバンクの利用が常態化することで、自立支援の方向性が弱まる懸念があるのも事実です。
改革の余地と今後の課題
この問題を解決するためには、単に「減額の是非」を議論するだけでは不十分なのかもしれません。
自治体が独自の裁量を持つべき範囲と、国が示す統一的な方針とのバランスをどのように取るかが問われています。
一つの解決策として、フードバンクの利用状況を把握し、一定の基準を設けることで、過度な利用を防ぎつつ、必要な支援を受けられるようにする仕組みが考えられます。
例えば、「年間○○回までの利用は減額対象外とする」や、「突発的な事情がある場合は減額しないが、定期的な利用者には個別に家計指導を行う」などのルールがあれば、柔軟な運用が可能になるかもしれません。(どうやって管理するかが難しいのでしょうけど。)
また、生活保護制度自体の見直しも必要かもしれません。
現行制度では、受給者の収入に対する厳しい認定基準があるため、ボランティア支援や一時的な援助まで「収入」として扱われることがあります。
これが、支援を受ける側の心理的なハードルを上げ、結果的に支援の届きにくさにつながる可能性もあります。
自治体ごとの裁量を活かしながらも、制度の根幹として「本当に困っている人に適切な支援が届く仕組み」を再構築することが求められているのではないでしょうか。