タワーマンション規制に踏み切った神戸市の取り組みから見えてくるもを考えてみたいと思います。
記事の説明
神戸市が2020年に施行した「タワーマンション規制条例」は、全国でも非常に珍しい都市政策です。
この条例は、三宮駅を中心とした市街地での高層マンション建設を制限するもので、都市の持続可能性や防災上の課題を見据えた神戸市独自の取り組みです。
背景には、日本全体が直面する人口減少問題があります。
人口減少は自治体の税収減や行政サービスの質の低下を招く深刻な課題です。そのため、タワーマンションは、住民を集め、都市の活気を保つ有効な手段とされています。
しかし、神戸市は、そうした短期的な効果よりも、長期的な都市の安全性や均衡ある発展を優先しました。
神戸市長・久元喜造氏は、阪神・淡路大震災の経験がこの条例制定に大きく影響したと述べています。震災時には、狭い範囲に人口が集中しているエリアが災害対応で混乱した過去があります。
この経験から、中心市街地での高層住宅の林立がもたらす災害リスクを懸念。
特に、インフラが被災した際に、タワーマンションの住民をどう支援するかという課題が浮き彫りになったのです。
結果として、中心市街地を「都心機能誘導地区」に指定し、住宅の新築を規制することで災害に強い街づくりを目指しました。
さらに、市街地への過度な人口集中は郊外エリアの衰退を加速させます。神戸市は、郊外の活性化を重要視し、ニュータウンの再開発や郊外駅周辺の整備を進めています。
この施策の一環として、既存の鉄道網を活用した「面で捉える再開発」を掲げ、郊外エリアの魅力を高めるためのリノベーションに取り組んでいます。
例えば、民間鉄道の「北神急行電鉄」を買収し、市営化することで運賃を引き下げました。
これにより、郊外から都心への移動が便利になり、住みやすさを向上させています。
神戸市の戦略は、人口が減少していく時代において、都市の競争力を維持しつつ、持続可能な成長を目指すものです。
短期的な人口増加や経済利益にとらわれず、災害への備えや郊外の活性化といった、長期的視野に立った政策を打ち出したことは、都市計画の新しいモデルとして注目されています。
高村の考え
神戸市の「タワーマンション規制条例」は、非常に興味深い政策です。
その根底には都市の持続可能性を重視する姿勢が見受けられ、特に震災リスクを踏まえた防災意識の高さは評価に値します。
しかし一方で、神戸市全体にとって本当に効果的な施策なのか、検討すべき課題も少なくありません。
まず、肯定的な視点から見ると、この規制は人口減少時代に適した都市戦略を体現しています。
目先の人口増加を追い求めるのではなく、郊外エリアも含めたバランスの取れたまちづくりを目指している点は、人口減少の課題がある他の都市が見習うべきポイントです。
都市間競争が激化する中で、既存のインフラ資産を活用し、住みやすい郊外を作る取り組みは、市民の長期的な幸福に寄与するでしょう。
一方で、懸念点として、この規制が都市の競争力を弱める可能性も否めません。
高層マンションは、利便性や高付加価値を求める層にとって魅力的な住居です。
それを制限することは、一定層の居住ニーズに応えられず、他都市へ流出するリスクを伴います。
また、不動産市場の活性化という点では、規制が地価や税収に負の影響を及ぼす懸念もあります。
さらに、防災の観点を重視する姿勢は理解できるものの、災害リスクを完全に排除することは不可能だと思います。
むしろ、防災力の強化や建物の耐震基準を厳格化することで対応可能な部分もあるはずです。
「タワマンを建てない」という消極的なアプローチだけでなく、災害時にも機能する街づくりをどう構築するか、もっと議論が必要です。
神戸市が示した「目先の利益ではなく、持続可能な都市へ」というビジョンには強く共感しますが、その実現のためには、規制だけに頼らず、多角的な視点で施策を進めるべきでしょう。競争力と持続可能性のバランスをどう取るかが、今後の課題として浮き彫りになります。