南海トラフ巨大地震の最大クラス地震における被害想定について改訂されたようですので、ご紹介しておきます。
PDFにして200ページ近くにまで及ぶ、中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループが公表した「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について」の概要をご紹介します。
目次
1. 被害想定の目的
- 南海トラフ巨大地震が発生した場合の「被害の全体像」を把握し、国や自治体、企業、地域・個人が防災・減災対策を検討するための基礎資料とする。
- 東日本大震災の教訓を踏まえ、“想定外をなくす”観点から千年に一度クラスの巨大地震を念頭に、最大規模の地震・津波を想定。
2. 被害の性格
①「最大クラス」の地震としての位置づけ
- 今回想定された南海トラフ巨大地震は、過去に明確な記録がなく、最新の科学的知見から導かれた『最大規模の地震』として設定されています。
- 一般的に言われる「100~150年に1度」ではなく、「千年に1度」あるいはそれ以上に稀な発生頻度とされています。
②「極めて発生頻度が低い」ことの意味
- 発生確率を算定することが難しいほど稀ですが、東日本大震災の経験を踏まえ、『最悪のシナリオ』を想定している点が特徴です。
- つまり、「めったに起きないが、一度起きれば被害は甚大である」という認識を持つべき地震です。
③広範囲で甚大な被害が想定されること
- 最大クラスの地震が発生すると、震度6弱以上の揺れや3m以上の津波に襲われる地域は、日本の31都府県・764市町村に及びます。
- この範囲は、日本の総面積の約3割、人口ベースでは約5割に達します。
人口密集地域が含まれるため、経済的・社会的インパクトも極めて大きくなることが想定されています。
④対策次第で被害軽減が可能
- 被害想定は、「被害が起きること」を前提に、「適切な対策を講じれば、被害は確実に軽減できる」ことを示しています。
- 特に重要なのは『耐震化』や『津波避難の徹底』です。建物やインフラを強化することで、被害規模を大幅に抑えることができるとされています。
⑤被害想定の目的と活用法
- 被害の規模や性質を正しく理解し、政府・自治体・企業・個人が「正しく恐れ、冷静に対処すること」が狙いです。
- 想定される被害を受け止め、防災・減災対策を進めることによって、日本が世界的にも優れた防災意識を持つ『防災先進国』としての姿勢を示すことも重要だと指摘しています。
⑥具体的な対策の必要性と備え
- 報告書では、行政だけでなく企業やインフラの管理者、各家庭に至るまで「自分たちに何ができるのかを明確にして備える」ことが強調されています。
- 特にライフライン(電気・水道・ガス・通信)の復旧には時間がかかるため、家庭内備蓄や地域単位での防災協力体制を事前に整備することが推奨されています。
3. 想定した被害の全体像
1) 建物被害
- 地震の揺れによる全壊:約61万棟~約127.9万棟
(老朽化や耐震性の低い木造住宅等で被害が顕著) - 地震の揺れによる半壊:約102.8万棟~約197.4万棟
- 液状化による沈下被害:全壊 約9.4万棟~11万棟 / 半壊 約48.1万棟~53万棟
- 津波による全壊:約16.1万棟~約20.8万棟
- 地震火災(延焼火災含む)焼失棟数:約6.3万棟~約76.8万棟
2) 人的被害
- 揺れによる死者:約1.7万人~約7.3万人
- 津波による死者:約9.7万人~約21.5万人
- 地震火災による死者:約1,400人~約2.1万人
- 要救助者(倒壊建物・津波浸水に伴う救出が必要な人)
揺れ:約11.3万人~約30.7万人、津波:約6.1万人~約8万人
3) ライフライン被害
- 停電:約2,610万軒~約2,950万軒(世帯ベース)
- 断水:約2,770万人~約3,690万人
- 下水道利用困難:約3,320万人~約3,570万人
- 都市ガス供給停止:約56万戸~約175万戸
- 固定電話の不通回線:約1,140万~1,310万回線
4) 交通・物流面
- 高速道路・主要国道:地割れや路面沈下、落橋により長期間にわたり通行止めとなる箇所多数。
- 鉄道:東海道・山陽新幹線、在来線の広範な不通。
- 港湾・空港:津波や液状化による岸壁・滑走路被災で緊急輸送・物流が大幅に制限。
5) 災害廃棄物
- 建物がれき:約1.9億トン~約4億トン
- 津波堆積物:約2,200万トン~約2,400万トン
※廃棄物の量が膨大で、中長期にわたる処理体制が必要。
6) 経済的被害
- 中京・京阪神地域の産業拠点被災や広域的交通網寸断により、全国・海外へサプライチェーンが大きく影響。
- 復旧・復興に要する時間と費用が膨大となり、産業活動や景気に深刻な打撃を与える可能性が示されている。
4. 発災直後から1週間後までの時系列イメージ
- 発災直後
同時多発する建物倒壊や火災、津波被害。電力・通信・道路網の遮断。 - 3日後
高速道路や主要国道など一部の交通路は仮復旧し始めるが、被災状況把握や救援が遅れ、断水・停電・物流混乱続行。 - 1週間後
避難者が増加・長期化し、燃料や食料、水などが全国規模で不足・混乱する。医療や衛生面で深刻な課題が生じる。
5. 防災・減災対策の重要性
南海トラフ巨大地震において、甚大な被害を軽減するためには、防災(災害を防ぐ)と減災(被害を最小限に抑える)の両面からの対策が極めて重要です。報告書が特に強調しているポイントは以下のとおりです。
①「命を守る」を最優先にした津波対策
- 最大クラスの津波では、人命を最優先に考える必要があります。
- 特に津波浸水が予測される地域では、短時間で高台や安全な場所へ確実に避難できるよう、『津波避難訓練』や『津波避難施設(避難ビルや高台など)』の整備と利用の徹底が必須です。
- また、土地利用の見直しや建築制限など、都市計画レベルでの対策も有効です。
② 耐震化の徹底による被害軽減
- 被害の中で最も多くを占めるのが建物倒壊による死傷者です。そのため、『住宅や公共施設の耐震化』を着実に進めることが強調されています。
- 特に老朽化した木造建物は大きなリスクとなるため、補強や建て替えを促進することで揺れによる被害を大幅に低減できます。
③ ライフラインの確保・強化
- 電力・水道・ガス・通信などのライフラインが停止すると、生活や経済活動への影響は甚大です。
- 各ライフライン施設の耐震性向上はもちろん、例えば非常用電源の設置や通信回線の多重化など、『機能停止を防ぐ仕組み作り』が必要です。
- 長期間停止した場合のバックアップ体制(非常用発電、給水車、非常通信手段など)を地域・事業者・行政が連携して確保することが不可欠です。
④ 避難所運営と被災者支援体制の整備
- 地震発生後、多くの避難者が短期間で避難所へ殺到すると想定されています。
- 事前に避難所の運営体制(備蓄物資、トイレの整備、要配慮者への配慮等)を地域ごとに整え、混乱を最小限に抑える準備が求められます。
- 避難生活が長期化することも見据え、住民自身が支援体制づくりに主体的に参加することも重要です。
⑤ 情報伝達と初動対応の迅速化
- 災害直後の初動対応の速さが、生存率や復旧スピードを大きく左右します。
- 迅速かつ正確な情報伝達のため、『防災行政無線』『緊急速報メール』『地域SNS』『広報車』など複数の手段を組み合わせた多層的な情報伝達手段を確保する必要があります。
- 特に自治体間や関係機関間の情報共有・連携を迅速化し、初動対応がスムーズに展開される仕組みが求められます。
⑥ 交通・物流網の早期復旧体制
- 道路や鉄道、港湾・空港などの交通インフラの被災は、災害時の人命救助や物資輸送に重大な影響を及ぼします。
- 事前に『緊急輸送道路の整備』や『迂回ルートの設定』、『物流の代替手段(海路・空路)』を準備しておくことで、早期の応急復旧が可能となります。
⑦ 医療体制・公衆衛生の確保
- 地震発生直後から大量の負傷者が発生し、医療機関は深刻な状況に陥ります。
- 『災害拠点病院』の機能強化、非常用電源の確保、医療物資の備蓄、医療スタッフの応援体制整備が重要です。
- また、長期的な避難生活の中で感染症対策や衛生管理を徹底する体制も必要となります。
⑧ 事業継続計画(BCP)の推進
- 地震は経済活動や雇用にも大きな影響を与えます。
- 各企業・事業所が『事業継続計画(BCP)』を事前に策定し、設備・従業員の安全確保、事業復旧の手順を具体的に決めておくことで、被害後の復旧スピードや経済的影響を軽減できます。
⑨ 防災意識の向上と地域連携
- 『自助・共助・公助』が連携する社会を作ることが、防災・減災には極めて重要です。
- 住民一人ひとりが地震や津波のリスクを理解し、避難訓練や地域防災活動に参加することで地域の防災力を向上させることが求められています。
このように、最大クラスの南海トラフ巨大地震は、きわめて広域的かつ長期的に経済・社会に深刻な影響を及ぼすシナリオとして示されています。そのうえで、耐震化や避難訓練、ライフラインの多重化など、多面的な対策を進めることで被害を最小限に抑える必要があるというのが報告書の主要メッセージです。
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