AIエージェントが切り開く近未来──2025年のビジネス戦略を考える
ここ数年で生成系AIや自律型AIエージェントの技術が一気に進化し、ビジネスの現場でもAI活用が当たり前の時代になりつつあります。
いまや「導入するかどうか」ではなく、「どうビジネス価値を生み出すか」が本質的なテーマ。
そこで今回は、あるオンラインセミナーで語られた「2025年のAIトレンド」をもとに、これからのAIとの向き合い方を整理してみました。
AI活用が一気に加速:大手企業の取り組み
ある総合技術企業では、深刻化する人材不足やコスト削減ニーズに対応すべく、社内あらゆる部門に生成系AIを導入。すでに1,000件以上のユースケースがあり、そのノウハウを対外サービスにも展開しているそうです。
AIによるコンサルティングから大規模言語モデルの最適化、さらにシステム運用サポートまで、トータルソリューションを提供しています。社会課題を意識したアプローチや複数のAIモデルを活用できる提案力、リスク管理の徹底などが評価されるポイントです。
こうした事例からは、「PoC(概念実証)で終わらせず、いかに実運用で成果を出すか」が鍵だと分かります。ここでは、この企業が示す2025年のAIトレンドを5つに分解してみましょう。
1. いよいよ本格化するAIエージェント
いまAIと会話して簡単な情報を得る“チャット型”の使い方から、一歩進んで「自動で判断・実行までしてくれる」エージェント型の技術が注目されています。
たとえば、ある企業では、システム改修時に影響範囲を自動的に推定するエージェントを開発中です。
社内に蓄積された設計書や会議メモから必要情報を探し出し、どの部分にどう影響するかを教えてくれるイメージですね。
製造業向けには、機器の故障原因を推定し、対策を示すエージェントの試験運用も進んでいるようです。
2. ROI(投資対効果)を突きつけられる段階へ
生成系AIを「実際の業務システムとして導入」する時代がやってきました。
もちろん開発コストや運用コストが発生するわけですから、トップや現場は確かな投資効果を求めます。
ある大企業では、ソフトウェア開発で生成AIを活用し、30%以上の工数削減を達成。
問い合わせサポート業務では対応時間を7割近く短縮した例も出てきています。
こうした事例が増えるにつれ、「試しに導入してみよう」という段階は終わり、「具体的にどの業務を、どのくらいのコストで、どう最適化するか」をシビアに見極めるフェーズに突入しています。
3. コスト削減から収益拡大へのシフト
当初、AI活用といえば業務の自動化による人件費削減や効率化が主でした。
しかし、2025年に向けてはマーケティングや接客など“トップライン”を伸ばす領域での活用が本格化するといわれています。
たとえばアパレルショップでデジタルアバターが自由対話型の接客を実施したところ、売り上げにプラスの影響が見られたといいます。
訪日客や外国人顧客が増え、人材不足も同時進行するなかで、AI接客は「最適解のひとつ」になりつつあります。
これが金融や不動産など他業界へ波及するのも時間の問題でしょう。
4. 暗黙知の継承が進む
製造業やエネルギー分野など、長年の経験や熟練者のノウハウが重要な業界では、ベテランの“職人技”をどのように後進に継承するかが課題になってきました。
そこにAIエージェントが登場すると、暗黙知の可視化が期待されます。
膨大なテキストや図面、業務マニュアルなどから知識を吸収させるだけでなく、熟練者が当たり前のように持っている「頭の中のデータ」を徐々に取り出してAIに学習させれば、新たな知見を生み出してくれる可能性があります。
さらに、複数のAIエージェントを連携させることで、組織内に眠るノウハウを最大限に引き出す取り組みも始まりつつあります。
5. UXデザインの重要性
AIが大幅に業務を省力化してくれる一方、「自分たちの仕事が奪われるのでは」という不安が現場スタッフに生じることもあります。
そこで必要なのが、導入プロセスやUI/UXの設計をしっかり行い、利用する人の心理面にも配慮すること。
たとえばコンタクトセンターにAIを導入する場合、ただAIの返答精度を高めるだけではなく、「スタッフが使いやすく、頼りたくなる」仕組みをデザインすることが欠かせません。
将来的には、AIと人間がうまくタスクを分担し、お互いの得意分野を生かす協働関係が当たり前になっていくでしょう。
スタートアップが見据える「エージェント時代」──DXの超高速化
続いて、AI領域を専門とするあるスタートアップが示した2025年のトレンドも興味深いものがあります。
彼らは、特に「エージェントワークフロー」の普及に注目しているようです。
これはあらかじめ設定した流れに沿ってAIがタスクを自動処理する仕組みで、給与計算や契約書レビューなどの定型業務には最適。
一方、自律的な判断が必要なクレーム対応や企画立案には「自律型エージェント」が適しているといいます。
しかし、企業がまず導入しやすいのは「エージェントワークフロー」のほうだと言われています。
ノーコードで実装できるプラットフォームが増えたことで、「数人規模のチームで数カ月かかるPoC」が「1人×数時間で動く原型」に変わりつつあるそうです。
これこそ「DXを超高速に進める鍵」といわれる理由です。
組織をつなぐ“橋渡し役”にもなる
大企業ほど部門間の壁が厚く、情報のサイロ化が起こりがちです。
そこで期待されるのが、AIエージェントが“必要な情報を必要な相手に橋渡しする”機能。
人間同士のやりとりでは、どうしても情報が抜け落ちたり、複雑な利害関係がからんで共有が進まない場合もあります。
その点、客観的にデータを判断し、タスクを進めるAIエージェントが共通のハブとなれば、組織全体の生産性向上が期待できます。
AIがもたらす地政学的影響
また、このスタートアップの代表は海外の国際会議に参加した際、「すでに世界はAIをどう使うか、どう規制するかの具体的な議論に入っている」と強く感じたそうです。
「AIは電気やインターネットのように当たり前のインフラになる」という見解や、「マネジメント層は将来“人間を導く最後の世代”になるかもしれない」という刺激的な意見が飛び出したという話もあります。
「社会全体が大きく変革する直前の時期に差しかかっている」のかもしれませんね。
まとめ:2025年はAIトランスフォーメーション元年
生成系AIやAIエージェントは、従来の業務効率化だけでなく、収益アップや新規事業開発、人材不足解消、さらには人間の暗黙知の継承にまで影響を与える存在になりました。
「人がAIに合わせるか、AIが人に寄り添うか」という議論はまだまだ続きそうですが、どちらにせよトップダウンとボトムアップの両面からAI導入を進めることが重要になります。
2025年はこうした“AIトランスフォーメーション”がさらに加速し、企業と社会全体を大きく変えていくでしょう。
これまで「できるかどうか」が焦点だったAIも、これからは「何をどこまで任せるのか」を検討する段階に進むといえます。
いままさに到来しつつある“エージェント時代”に備え、私たちも自分たちなりの戦略を描いていく必要があるのではないでしょうか。